2011・夏 「脱・原発依存社会」の行方
―原発とエネルギーをめぐる四方山話―
2011・夏(その1)



Aさん―久々に日本に戻ってきましたけど、東日本大震災の復興の槌音もまだ聞こえませんし、フクシマも順調に収束に向かっているのかよくわかりません。(→99講、100講)
でも原発の将来については、短期間で方向転換の兆しがあるかのように思えます。ついに昨日は菅サンが「脱・原発依存社会」というのを言明しました。
(フクシマの今)
H教授―今後の原発とエネルギー政策のありかたについては、先週から今週にかけて、急速に情勢は変化している。ひょっとすると、この夏にでも歴史的なというか、劇的なエネルギー政策の転換だって考えられないわけじゃない。
だけど、まずは順を追って、「フクシマの今」の話をするか。
6月中旬に一応汚染水の循環処理装置を設置したんだけど、トラブル続きだ。
Aさん―まあ、フランスと米国の技術をドッキンッグさせた、世界でもはじめての装置でしょうから、当面は仕方がないんじゃあないですか。
H教授―うーん、そう楽観視していいのかな。そのたびに汚染水が溢れるんだろう?
地下水脈に流れ込んではいないだろうか。
第一、メルトダウン(→18講その5)しているんだったら、溶融した炉心の一部が圧力容器から格納容器に流れ出しただけでなく、さらに原子炉建屋の下にまで行って、地下水汚染を引き起こしているんではないかと心配でならない。
Aさん―そんなこと、東電も原子力安全保安院も言ってません。
H教授―問題はかれらの言うことが、もはや素直に信じられないことだ。
いずれにせよ、先日、中長期の工程表案を出したが、廃炉には数十年かかるのは確実だし、少なくとも原発周辺何キロメートルかは、将来とも人は住めないということだけは確かなようだ。
Aさん―でも誰もこんなことになるなんて、予想していなかったんでしょうねえ。
H教授―「日本列島放棄」という新井克昌の小説がある。これにはマグニチュード9近い宮城沖大地震が起きて、福島第一原発が機能不全に陥り、放射性物質を大量に放出するというものだ。
そのあと連鎖反応的に東海などの大地震が続発、各地の原発がつぎつぎとダウンし、放射性物質を放出し、ついに国民は日本を放棄するという空恐ろしい小説だ。
Aさん―今回の大震災とフクシマ事故に触発されたキワモノ小説ですね。
H教授―違う、違う。この本は2007年に出版されているんだ。

Aさん―え、え〜?
H教授―ド素人の小説家があてずっぽうにせよ想像できたものが、専門家には想像できなかったんだ。なんだか、悲しくなってくるねえ。
それとフクシマと津波にばかり目が行ってしまうけど、今回の大震災は、誰もが想像もつかない規模の液状化現象をもたらしたことも忘れちゃあいけない。これにも専門家は不意を突かれたようだ。
Aさん―…
(大臣と官僚機構)
H教授―あと津波と地震のことだけど、6月中旬には復興基本法ができて、復興庁ができることが決まった。また、復興会議の提言も出てきた。インパクトはいまいちだけど。
Aさんーそして復興・防災担当大臣と原発担当大臣が任命されたかと思ったら、一週間で復興・防災大臣の松本サンは失言でクビになりました。
H教授―少々の失言ぐらいでーと思ったけど、TVで見てみるとあまりにもヒドイね。前後の状況はよく知らないけど、あれじゃあクビになっても仕方がない。
顰蹙を買った松本サンの義理のお祖父さんは松本治一郎という、部落解放運動の草分けのような、尊敬に値するヒトだったけどねえ。
そして復興・防災担当大臣には、環境大臣が横滑りした。そして環境大臣は法務大臣の江田五月サンの兼務となり、週一回しか環境省に来ないので、事務方はえらい迷惑を被っているらしい。
Aさんーそれはそれとして、復興・防災担当大臣とか原発担当大臣って、ホントに機能するんですか。
H教授―問題は大臣の権限と事務局機構だね。
大臣にきちんとした権限を与えたうえで、各省からの片道切符組が事務局の主導権を握れば別だろうが、出向組主導だったりすると、たいしたことはできそうにない。
あと事務局官僚は、落下傘でひとり降りてきた大臣の洗脳ぐらい簡単にやっちゃうから、大臣には実務に習熟したブレーンも必要だし、内閣が一体となって、大臣を支えなきゃあダメだろう。
それにしても原発担当大臣なんて、権限もスタッフもほとんどないんじゃないかな。
Aさんーとりあえず思いつきで置いたポストじゃないんですか。
ところで復興会議の提言もでてきましたが、莫大なオカネがかかり、また借金です。一方、消費税10%で民主党はもめています。この先どうなるんですかねえ。
(非常時体制考)

H教授―日本政府は米国の国債を100兆円くらいは持っているらしいよ。
日米関係を考えると、これをどうこうするのは平常時は無理だろうが、こんな非常時なんだから30兆円くらいは売っ払えばと思うんだけど、誰一人そういう発想がないんだね。
Aさんーどんなことでも、米国の機嫌だけは損ねたくないんじゃないですか。
H教授―日本史上稀な国難なんだぞ。いまさら言っても詮無いことかもしれないが、3・11は前年度に起きたんだ。だったら、新年度予算の一部の執行を停止すべきだったんじゃないのか。
何兆円ものカネがかかることは分かり切っていた。だったら、公共事業の半額、地方交付税交付金の3割、公務員の人件費の2割など、全体として国債費を除く予算の1割―7兆円―くらいは執行を停止し、財源として確保しておくべきだったと思うぞ。
Aさんーなるほど。
でも3・11以降の政治情勢はもう無茶苦茶ですね。あれもこれも菅サンがだらしないからじゃないですか。
H教授―そりゃあ、菅サンが可哀想だ。多分、誰がやってもそうなってたよ。いや、もっとひどいことになってたかもしれない。
浜岡原発(→58講その2)を休止に追い込んだのも菅サンだからこそだろう。
Aさんーでもどうしてこんなことになるんですかねえ。
H教授―3/11からの数日間は非常時だったんだ。いまだって或る意味そうだ。
非常時には非常時の組織運営が必要だし、最悪の事態を想定して動かなければならないんだ。そして、なによりもスピードが優先される。
トップは基本方向とポイント、ポイントだけを指示し、一切の責任は自分がとると明言する。あとは現場に一切の指揮を任せる。中間職制や組織は後方支援に回り、口出ししないことが必要なんだ。