2012・秋 秋の夜長の環境夜話
2012・秋(その1)

(「山はみんなの宝」憲章)
Aさんーセンセイ最後の上高地ゼミ合宿は好天に恵まれよかったですねえ。
H教授―うん、三日間、くっきりと穂高の連峰がみえたものなあ。穂高に登りたかったなあ。
Aさんーなに言ってるんですか。河童橋から1キロも歩かないうちに膝が痛い痛いとわめいていたじゃないですか。だらしない。
H教授―そう言うなよ。ボクの人生の苦労が膝に濃縮されているんだ。
ところで山岳トイレの話は以前したよなあ。
Aさんー確か山小屋のトイレは宿泊客だけでなく、一般の山男――あ、山ガールもか――たちも利用しているんですよね。だから、その整備に補助金を出している県に対して環境省が補助をしていたんですよねえ。
H教授―うん、そういうのを間接補助事業と言う。
Aさんーその間接補助事業に対して、環境省の行政事業レビューでは不要と言う判定がでて、それに対して多くの関係者や岳人が抗議の声を挙げ、辛くも存続が決まったという話ですね(→92講その4)。
H教授―うん、声を挙げた山小屋関係者や岳人たちのほうでも、実情を認識していないレビューに対して厳しい批判をするだけでなく、山の恩恵を受けている側でも応分の負担をすべきだとか、ルールやマナーについて入山者にも自覚と責任を求めるべきだとかの意見が出され、そういう運動を展開していくことを決めた。その結果、環境省のほうも事業の存続を決め、財務省もクリアできたんだ。
形態も間接補助から山岳環境保全対策地域協議会の推薦のあった山小屋への直接補助になった。
Aさんーよかったですね。


H教授―うん、その後も議論をつづけ「山はみんなの宝」憲章を制定しようと言うことでいま全国的な運動をつづけているんだ。(1)
キミも山ガールの一員なら賛同の声を挙げるとともに、その声を広げて行ってくれ。
Aさんーわかりました。仰ぎ見た穂高の山々をみると本当に宝物だという気がしますものねえ。さ、下界の話にいきましょう。
(復興予算騒ぎー後の祭り)
Aさんーセンセイ、復興予算がとんでもないところに使われていたって大問題になっています。
H教授―そんなの去年の7月の補正予算を決めたときから分かっていたことだ。自民党は鬼の首をとったようなことを言っているが、自分たちだって十分承知していたはずだよ。
Aさんーセンセイは問題がないと?
H教授―そんなことは言ってない。だけどあらゆる機会に予算と権限の拡大を図ると言う役人の習性を少しでも知っていたら、こうなるのは当たり前だとわかるよ。ボクだって役人だったら、屁理屈付けてそうしたさ。
問題は復興予算をそういうことに使えば、いずれ世間で問題になり、叩かれるだろうという予測もつかなかった大臣や政務官たちの政治的な感性の鈍さが問題だろう。
Aさんーそうか、なんだか救い難い感がしますね。その民主党の党首選ですが、あれだけ不人気だのに野田サンの圧勝でした。
H教授―党そのものが衰退している証拠だろうというしかないね。
Aさんー一方、自民党の総裁選は5人が立候補し、選挙の結果、安部サンが返り咲きました。
H教授―昔、政権をある日突然投げ出した安部サンだなんて、バカバカしすぎてコメントする気もおきない。ま、どの5人も同じようなことしか言わないし、とくに領土問題に関しては思いっきりのナショナリズム丸出しだ。
Aさんーでもどの国の政治家も、国民の排外主義的気分に乗ったり、それどころか煽ったりしているような気がして仕方がないですね。
H教授―日本も例外じゃあない。シンタローなんて最たるものだね。それに煽られて尖閣諸島を国有化した野田サンもどうかと思う。
Aさんーそのシンタローさんが都知事を辞任して、新党を立ち上げ国政に復帰すると宣言しました。

H教授―な、何だって? そんなバカな! あのウルトラナショナリストのシンタローが、国政を万が一左右するようなことになれば、日本はどうなってしまうんだ。あ、悪夢だ。
Aさんーマルクスさんは昔「プロレタリアは祖国を持たない」って言ったそうですが、残念ながら空語に近いですね。(諦め顔)
H教授―でも、そんななか維新の会を旗揚げした橋下サンが一番マトモだったのには、ちょっとびっくりした。
領有権に関しては竹島だけでなく、尖閣諸島も南千島も全部国際司法裁判所の裁定に委ね、それまでの間の島周辺の漁業だとかについては共通のルールを作れと言っている。
いろんなチャンネルを使って、こういう落とし所に向けて探ると言うのが、本当の「外交」だと思うよ。
Aさんーへえ、センセイが橋下サンを評価するのってはじめて聞きました。

H教授―好き嫌いと評価はまた別さ。今だって大嫌いだ。
週刊朝日で佐野眞一が橋下サンのドキュメントを始めたことに怒って、週刊朝日だけでなく朝日新聞までを取材拒否。強引に佐野の連載をストップさせたけど、そんなの佐野に対してクレームをつけるべき話じゃないのかな。
ボクは佐野の問題になったドキュメントを読んでないからなんとも言えないけど、ネットではまじめなドキュメントでどうみても差別的な意図なぞ感じられなかったという書き込みを随分みたよ。ボクも書いたのが佐野ならば直観的にそう思う。
(原子力規制委員会発足)
Aさんーふふ、やっぱり橋下サンには手厳しい。
ところで、新たに発足した原子力規制委員会と原子力規制庁ですが、期待できそうですか。
H教授―そんなの分かるわけないじゃないか。原子力規制委員会のメンバーも原子力ムラやそれに近い者が多く、期待できないなんてことが言われているけど、原発のことを熟知しているのは、ごく一部の反原発派の研究者などを別にすれば、原子力ムラ(→100講その4)に近くなるのは或る意味当然だ。
問題は3・11を経て、今までのようなナアナアの持ちつ持たれつ関係が払拭できるかどうかなんだ。
Aさんー同時に原子力規制庁も発足したんですよね。
H教授―うん環境省の外局だが、原子力規制委員会
の事務局ということで、委員会の指示を受けて動く手足ということになる。規制庁長官は警察官僚上がりだが、幹部は原子力ムラで固めたという記事も出ていた。
規制委員会のHPには規制委員会メンバーの最初の共同記者会見の動画が出ているから、いちど見ておくといい。(2)
また原子力安全委員会の最後の記者会見の議事録もHPで公開されている。斑目サンなど委員の本音がでていて、興味深い。(3)
ところで原子力規制庁に衣替えした保安院も最後に「原子力安全分野における原子力安全・保安院としての改善に向けた取組と残された課題について〜事故調査委員会(国会・政府)からの指摘を踏まえて〜」という声明を出している。(4)
だが、典型的なボーズ懺悔で、事故調査委員会から指摘を受けたような事態がなぜ起きたについて全く触れていない。安全委員会と同じように、最後の記者会見をして、それを公表してほしかったが、それが委員会と官僚組織との差かな。
保安院の院長はさっさと特許庁長官になってしまったしね。
Aさんーそんななか、東電がようやくきちんとした備えをしておけばあの事故は防げたし、津波後もソフトな訓練と対策で事故の拡大は防げたと正式に自己批判しました。
H教授―東電タスクフォースの報告だね。保安院の総括よりはマシだろう。(5)
だけど、なぜTV録画の完全公開をしないんだ? そして政府はさせないんだ?
Aさんーで、いままでは保安院はストレステストをパスすれば、再稼働OKとしていましたが、これからは、ストレステストは単なる参考で、規制委員会は改めて再稼働のための安全基準をつくると言ってるんですね。
H教授―うん、規制委員会の委員長は、委員会は再稼働のための安全基準をつくるが、これは安全面だけの基準であり、再稼働するかどうかは電力需要だとかの政治的判断も必要であり、それは政府の責任だと言明している。

Aさんーえ? 枝野サンは原子力規制委員会が再稼働するかどうか判断するって言ってましたが…
H教授―押し戻されたようだね。それに枝野サンは大間原発など着工済みの原発3基については認める方針を明らかにしたけど、一方、山口の上関などの未着工原発は認めないとも言明している。
だけど、そもそも認めるとか認めないとか、政治判断による再稼働の可否だとかの法的な手立てがないらしいよ。だから急遽政省令改正の検討を開始したって。まるでマンガだね。
Aさんー未着工原発は認めないったって、世論調査でも自民党が返り咲きするのは必至のようですから、未着工原発もゴーサインが出るんじゃないですか。
参考リンク
- (1) 【「山はみんなの宝」憲章 - 「山はみんなの宝」憲章】
- http://yama-takara.jimdo.com/