最終時評―2013年の環境政策のみどころ

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2013・冬(その2)

(バックフィット規制と再稼働)

H教授 ―フクシマ事故の後、改正された原子炉等規制法(→2012冬その4)が全面施行になるのは7月だ。改正法では40年原則廃炉の他、過酷事故対策の遵守とそのバックフィット規制が決まっていて、骨子案が発表された新安全基準は原子炉等規制法の施行規則になるものなんだ。

Aさん―バックフィット規制?

H教授 ―法律の原則は遡及しないことだ。バックフィット規制とは、その原則に逆らって、新たな厳しい基準を、既設の原発にまで遡及させようというものだ。
ふつうなら絶対電力会社はOKしなかっただろうし、常識的には考えられないことだよね。
建築基準法が改正されて基準が厳しくなったって、改正前に建築確認を受けて立てた建物はそのままだよね。それが当たり前なんだ。

Aさん―でも、こと原発に限っては、あえて原則に逆らうことにしたんですね。

H教授 ―フクシマの前だって、原発だけは別だっていって、行政指導でバックフィットさせることにはなっていたんだけど、強制力はないし、遅々として進んでいなかった。
でも電力会社もさすがフクシマの後では、法定でのバックフィット規制を認めざるを得なかった。バカな財界の幇間評論家はそれに噛みついているけどね。
今回のものは骨子案で、これからさらに練ってパブコメにかけ…という作業があり、規制委員長はちゃんとした成案が出来るのは、全面施行時ぎりぎりになりそうだと言っている。

Aさん―再稼働の安全審査の受付は、それが施行された後からだと、規制委員会の方では決めているわけですね。

H教授 ―うん、バックフィットのための施設等を整備してからでなきゃあ、審査自体を始めるわけにはいかないだろうし、規制委員長は再稼働に至るまで、3年くらいはかかるだろうと言っている。
活断層問題でも大飯だけじゃなく、敦賀にしても、東通にしても規制委員会は厳しい姿勢を崩していない。敦賀原発の下の断層は活断層の疑いが強いと規制委員会の意見は全員一致。規制委員会だって、原子力ムラ(→100講その4)から脱却したと言うところを見せなきゃいけないということは、思いっきり自覚しているよ。
だから、このままいけば、敦賀もそうだけど、いくつかの原発は永久に再稼働できなくなる可能性だってないわけじゃあない。

Aさん―つまり廃炉ってわけですか。

H教授 ―廃炉って、口で言うのは簡単だけど、実際にやるには技術的な難問が山積しているし、莫大なオカネもかかる。再稼働しない場合でも、とりあえず停止させて厳重に管理というのが現実的じゃないかな。その場合の費用負担だとかややこしい問題がまた出てくるが。


(原発維持派内閣だのに完全脱原発状態出現?)

Aさん―おまけに今年の夏か遅くとも初秋には、唯一稼働している大飯原発も、定期検査でとまっちゃいますから、脱原発が実現しちゃうんじゃないですか。

H教授 ―うん、昨年の夏にはさんざん停電の脅しがあったが、この冬はそういう話は一向に聞こえてこない。
夏の参議院選挙のことがあるから、自民党はスポンサーがなんと言おうと、規制委員会を無視して再稼働を強行するわけにはいかず、スポンサーをなだめながら、先送りを図るしかないんじゃないかな。
だけど、先送りすればするほど、脱原発の実績は積み上がり、少なくとも電力需給の観点から原発が必要だと言う論は説得力を失い、ますます再稼働は難しくなる。

Aさん―でも安部サンは再稼働したいんでしょう?

H教授 ―もちろんさ。電力業界だけでなく、産業界全体や原発設置自治体、そして米国からも原発再稼働の圧力は強まるし、安部サンもそれを意識して閣僚人事を行い、秘書官に原発維持推進派の二人の官僚を起用した。
さらには3・11前に計画されていた12基の原発の新設は、野田内閣の「革新的エネルギー環境戦略」(→2012秋その2)では認めないとしてたんだが、安部サンは新設ありうべしと言明し、同戦略は白紙に戻すことになった。

Aさん―それって原発維持・推進に戻すと言ってるみたいなものじゃないですか。

H教授 ―一方じゃあ、規制委員会は以前の安全委員会(→99講その3)の轍を踏むまいとしているようで、新安全基準骨子案を出してきた。
安部サンは内心苦々しく思っているだろうが、規制委員会の判断を尊重すると言わざるを得ない。なんといっても夏には参院選があるからな。

Aさん―じゃ、規制委員会に新安全基準を骨抜きにするよう、見えない圧力をかけてるんじゃないかしら。或いはメンバーを入れ替えるとか。それに法的には規制委員会抜きでも、再稼働はできるんじゃなかったんですか。

H教授 ―規制委員会抜きで再稼働するなんてことは、法がどうだろうとできるはずがない。
メンバーの入れ替えをしたいのはやまやまだろうが、そうすれば叩かれて参院選に不利になるから、現状のままと言明しちゃった。次の国会で正式に決めるそうだ。
規制委員会は自民党の要求で独立性の高い三条委員会(→2012春その2)になった。そこに圧力をかけるというのも、うっかりそれがマスコミに漏れれば、ことだしなあ。

Aさん―つまり安部サンや政府・自民党の大半の内心に反するとしても、事実上の完全脱原発が出現してしまう可能性は、かなりありそうだということですね。

H教授 ―もっとも新安全基準も、全部をクリアしてなければ再稼働を認めないのでなく、新聞報道によると一部の設備には猶予期間を認める意向だそうだし、活断層と立地の関係も言い回しが、やや曖昧な部分もあって、ほんとうに安全に徹したものにできるかどうかはまだわからない。
再稼働だってウルトラCがあるかもしれない。
つい先日も原子力規制庁(→2012秋その1)bRの文科省から来た審議官が、敦賀原発の活断層問題の委員会報告書原案を日本原電に漏らすという不祥事が起こった。
でも訓告という極めて軽い処分を下しただけで、しかもノーリターンルールを無視して文科省に戻すなんてことも起きて、相変わらずの原子力ムラの健在ぶりを示したしなあ。

Aさん―じゃあ、規制委員会にはなんとしても、新安全基準が骨抜きにならないよう頑張ってほしいですね。

H教授 ―うん、ただ問題は安全基準を厳しくすることを手放しで喜ぶかどうかだ。

Aさん―どうしてですか。厳しくするのは当然じゃないですか。

H教授 ―そりゃまあそうなんだけど、例えば建設後30年経過した原発で、何百億円も新たな安全投資をして基準をクリアし再稼働したら、40年で簡単に廃炉するとは思えないじゃないか。

Aさん―…

H教授 ―もちろんハードルを思いっきり高くして、それをクリアするのはとても経済的に引き合わないようにして、脱原発に持っていくというのも一つの考え方だ。
でも、安全基準をやたら厳しくすることより、5年先とか10年先の脱原発を明確にし、それまでの間、比較的安全な原発に限って応急対応だけで、再稼働を認めるという選択肢もあったかもしれない。

Aさん―比較的安全な原発って?

H教授 ―地震がほとんどなく、付近に活断層がないなど、自然的な条件が一つ。もう一つは免震重要棟が整備され、複数の非常用電源が高所に設置されていること、ウエットベント設備が完備していること、住民の避難経路が確保されていることとかだね。
ま、いまさら取りえない選択肢ではあるけどね。

Aさん―前の選挙の時、嘉田サンが小沢サンと組んで立ち上げた「未来」は、10年後の「卒原発」をうたい、再稼働一切不可だと言ってましたが、可能なんでしょうか。

H教授 ―相当の不便と、それまでの間の電力料金のかなりの値上げを覚悟しなければいけないが、不可能じゃないだろう。
いまだって大飯を除けば脱原発しているんだから。

Aさん―でも脱原発が実現すると、電力料金は上がらざるを得ないですね。

H教授 ―そもそも新安全基準を満たすような整備をしたら、原発だって電力料金は相当高くなると思うよ。
それに、無暗な値上げを認めれば、認めた政府への批判は激しくなるだろう。
値上げを回避できるかどうかは別にして、発送電分離(→2011夏その3)だとか、9電力独占体制を解体するとかの、エネルギー政策の抜本見直しが言われているが、安部サンはそれに本格的に踏み込む覚悟が果たしてあるかだね。
経産省有識者委員会は、5年後をメドなんて報告書を出したそうだけど、5年後なんて先送りと言われても仕方がないだろう。
産業界は原発再稼働を要求しつつ、一方じゃあ、自家発電の増強や節電型の構造改革を進めると思うよ。
ところで、脱原発状態の出現を、とりあえず安部内閣が容認せざるを得なくなったとしても、それはそれで、また別の問題が生じる。


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