第96講 「海図なき航海−2010年から2011年へ」

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第96講 (その1)

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Aさん―センセイ、明けましておめでとうございます。今年は真っ白に覆われた元旦だったですねえ。

H教授―やあオメデトウ。でもなあ、真っ白なのはボクのアタマだよ。

Aさん―ぷっ、なにを言ってるんですか。センセイの髪の毛が真っ白なのはもう何十年も前からじゃあないですか。授業中でも「関西の筑紫哲也」だなんて言って失笑をよく買ってましたよ。
でも、最近の学生サンはもう筑紫サンを知らないから、そのギャグは通じなくなりましたけどね。大体・・(なおも話し続けようとする)

H教授―(強引に話を遮り)バカ!いい加減にしろ。誰が髪の毛の話をしているんだ。
日本や世界のこれからの先行きを考えるとアタマのなかが真っ白になるって言ってるんだ。

Aさん―へえ、これからの先行きって?

H教授―だってそうだろう、経済、雇用、環境、外交・・・なにをみても明るい話なんてまったくないじゃないか、そして一番暗くなるのは、そのことに対する危機感をみなが持ってないことだ。

Aさん―(小さく)一番持ってないのはセンセイだったりして・・・
そう一刀両断にせずに、ひとつひとつ話していきましょう。昨年はいろいろありましたねえ。

H教授―うん、そうだな。キミが昨年興味を持った事件はどんなものがある?

Aさん―海老蔵サン!

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H教授―はあ、海老蔵?(ガックリ肩を落とす)

Aさん―はは、冗談に決まってるじゃないですか。
そうですねえ。国内でいえば、普天間問題に端を発した首相の交代劇と民主党人気の余りにも急激な凋落。昨夏の参院選挙では一昨年の総選挙がウソだったかのような完敗でした。

H教授―というか、もはや民主党はひとつの政党とはいえないほど深刻な内部分裂を起こしている。

Aさん―小沢サン問題ですね。

H教授―いやそれ以前に、鳴り物入りで登板した民主党政権だったが、それまでの自民党的政治と変わる新たな方向性を民主党が提示することができなかったということだ。
大体小沢サンのカネの話は二年以上前からあって、にもかかわらず、一昨年の総選挙で大勝したじゃないか。だから、政策論争でなく、そんな本来は関係ない話を政争の具にすること自体異常といわざるを得ない。

Aさん―キャッチフレーズで言えば、「政治主導」、「コンクリートから人へ」「新しい公共」などと言ったけれど、結局はコトバだけで新たなスタイルとして定着させるのに失敗したということですか。

H教授―うん、例えば「政治主導」だけど、結局やろうとしたのは政治家主導にすぎなかった。基本的な方向を内閣で共有して、その具体化を役所に指示しなければいけないのに、そういう方向性の共有なしに、やったことは省庁のなかで政務三役だけで細かいところまで全てを決めようとしたこと。
政務三役だけでそんなことができるはずがないから、結局は元の木阿弥。政務三役が役所の代弁者になって取り込まれて終わってしまった。
その象徴的なものが全省庁一律一割カットでスタートした来年度予算案だし、環境政策でいえば国内排出権取引の制度設計を環境省、経産省がそれぞれバラバラにやったことだろう。(→94講その3

Aさん―オカネがないというのに、こども手当てだとかのバラマキも改まらなかったですね。

H教授―それだけじゃない、「コンクリートから人へ」と言ったはずなのに、泡瀬干潟埋立(→92講その1)にゴーサインを出したし、八ツ場ダムについても、どうやらゴーサインに方向転換する気配が強くなった。そうすれば確実に見込める票があるものな。

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Aさん―だって、そのために失う票のほうが多いんじゃないですか。

H教授―どの程度失うかは不確実だから、とりあえず確実なものにすがったんだろう。
こういう公共事業の逆流やバラマキに関しては菅サンだけでなく、小沢サンも同罪だと思うな。

(諫早湾干拓、開門調査に)

Aさん―はいはい、もう床屋政談はそこまでにして、前講以降の話に絞りましょう。
12月、福岡高裁は国営諫早湾干拓が漁業被害を与えたとし、潮受け堤防について5年間の開門調査を命じる判決を出しました。農水省は当初上告の方向で検討していましたが、菅サンの意向で上告を断念し判決が確定。早ければ2012年度からでも開門調査がはじまることになりました。

H教授―この判決は地裁の判断を支持し、国側の控訴を棄却したもので、地裁判決の出たときにも論評した(→66講その2)ので、それを参照してほしい。
今回は菅サンの指示で農水省の抵抗を押し切って上告を断念したものだ。もともと菅サンは野党時代に諫早湾干拓を無駄な公共事業の典型だとして批判してきたからな。

Aさん―なんで農水省は抵抗したのですか。

H教授―農水省でも開門調査をするときのアセス、つまり環境影響調査をしていてその中間報告がまもなくまとまる予定だったので、開門調査の是非はそれを待ってからの政治判断で行うとし、それまでの間、上告して時間稼ぎをしたかったんだろう。
ぼく自身は今回の菅サンの判断を支持するが、問題はこのあとだ。

Aさん―どういうことですか。

H教授―潮受け堤防内の調整池は常時開門すれば塩水化するので、干拓地のための農業用水は別途確保しなくちゃいけないし、塩害防止の設備も必要だ。これらに数百億円という膨大なコストがかかるそうだ。
それに5年間開門調査を行ったからといって、干拓と漁業不振との因果関係が明確になるかどうかわからないし、調整池が塩水化したからといって、漁業が元通りに盛んになる保証なんてどこにもない。
判決では3年間の準備期間を認めているから、3+5で8年後も漁業が低迷したままだったとしたら、また大問題になりかねない。

Aさん―センセイはどうお考えですか。

H教授―いまとなっては干拓事業自体が壮大なムダだったといわざるをえないが、覆水盆に帰らずで、潮受け堤防を取り壊したり、干拓地をもとの海に戻すとかの選択肢はないだろう。
潮受け堤防は将来とも道路として活用し、あとは長年月かけて干拓地の沖合いに干潟ができるのを見守るしかないだろう。(→29講その2

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